Everything Is Wrong / Moby


叙情的なピアノのアルペジオで綴られる1曲目「Hymn」をじっくりと味わった後、2曲目「FeelingSoReal」はハウス風の急展開をみせる。初めて聴いたときには、この落差に驚かされた。さらに3曲目「AllThatINeedToBeIsLoved」はメタル・パンク風、4曲目「Let’sGoFree」はヒップホップ風、5曲目「EverytimeYouTouchMe」はテクノ・ファンク風、6曲目「BringBackMyHappiness」は再びハウス、7曲目「WhatLove」はガレージ・パンクと、千変万化、めまぐるしい展開をみせる。

さて8曲目「FirstCoolHive」からこのアルバムは、また違った側面を見せてくれる。流行のスタイルを器用にこなす前半の派手な演出と打って変わって、実に味わい深い曲が並んでいる。Mobyというアーティストの本当の実力は、このアルバム後半部分で明らかになると言えよう。9曲目「IntoTheBlue」も、いい。実にいい。このような素朴なアレンジでオリジナリティを感じさせるには、相当の「器量」が必要だ。ミニマルミュージック、あるいは環境音楽の要素も含んでいる。

このアルバムには13曲が収められているが、それとは別にもう一枚のボーナスCDがついていて、「Underwater1」から「Underwater5」まで名前が付けられた5曲が収められている。これらはアルバム後半で感じられる環境音楽の要素を前面に押し出したもので、アンビエント感にあふれたものだ。静かな夜にこれらの曲を聴いていると、Mobyというアーティストは、実に様々な方向性を持っていることがわかると同時に、もしかしたら彼は、これらの「Underwaters」を世に出したいために、この「EverythingIsWrong」というアルバムを作ったのではないか、といった見方もしてみたくなる。

このアルバムを「私は一生聴き続けるだろう」と言った人がいる。いろいろな音楽に出会い、影響を受ける。生きるための力を得たり、心の支えになったり、人生を変えるきっかけになったりする。人と人を結びつける触媒になったりする。音楽は不思議だ。このページを読みに来たお前も、音楽の魔力に取り憑かれているに違いない。そうだろう?

このアルバムは1995年にMuteRecordsLimitedから発表された。英盤のCDだ。

2004.5.1