タイス・ヴァン・レアー、はフォーカスのフルート奏者だった人だ。フォーカスは1970年にファーストアルバム「イン・アンド・アウト・オブ・フォーカス」を発表し、1970年代の中頃に絶頂期を迎えたジャズ・ロックバンドだ。当時日本ではプログレッシブロックのジャンルに含めて語られることが多かった。今のようにインターネットなどで情報が自由に手に入るような時代ではなかったので、多少荒っぽく言うなら、ポップミュージックかハードロックでなければプログレッシブロックというしかなかった時代だったのだ。俺がフォーカスを始めて聴いたのは、日本盤で廉価発売されていた「フォーカス・アット・ザ・レインボー」というライブアルバムだった。輸入盤が今ほど流通せず、音楽情報も少ない中で、しかも書籍と同じように再販売価格維持制度の下で、値引きできないといったレコード商品の中で、低下を安く設定された「廉価盤」は、高校生にとっては手にとりやすいアルバムだった。それにしても「再販売価格維持制度」とは、意味のわかりにくい言葉だ。
フォーカスのもう一人のスタープレイヤーは、ギタリストのJanAkkermanヤン・アッカーマンだった。からりと乾いたサウンドと叙情豊かなバイオリン奏法は独特のものだった。ここに紹介するタイス・ヴァン・レアーのソロアルバムにもフォーカス時代の曲が選ばれているが、このアルバムを聴きながらヤン・アッカーマンのギターが記憶によみがえり、頭の中で鳴り響くのを抑えることができなかった。
このアルバムに収められているのは全部で7曲で、36分23秒と比較的短い収録時間だ。J.S.バッハの曲が2曲、アルバムのアレンジと指揮をしているRogierVanOtterlooという人の作品が2曲、フォーレの曲が1曲、そしてタイス・ヴァン・レアー名義のフォーカスの曲が2曲、フォーカス1とフォーカス2だ。やはり俺にとって懐かしいくて嬉しいのは、この2曲だ。
このアルバムにクレジットされているのは、フルートとしてタイス・ヴァン・レアーとともに、VoiceとしてLettyDeJongという女性ボーカリストの名前だけである。透明感のある可愛い声のボーカリストだ。そしてMusicArranged&Conductedとして、RogierVanOtterlooという人の名前がある。先に書いたように、この人は作曲としてもタイトル曲の「イントロスペクション」と「ロンド」の2曲を提供している。他のミュージシャンの名前はない。だがストリングスを中心に、曲によってはドラムやベースも使われている。
自己主張を抑えた、淡々としたアルバムだ。フォーカス時代の熱い演奏を懐かしく思う俺にとっては、少々物足らない感じもする。アルバムタイトルの「イントロスペクション」は「内省」という意味。円熟のミュージシャン、タイス・ヴァン・リアーの自分を見つめなおしたアルバムといえよう。詳しいデータが書かれていないのだが、おそらく1994年に発表されたものだ。このCDはSonyMusicEntertainment(Holland)B.V.から発売されたオランダ盤だ。しかしジャケットの写真は、どうして頭にサングラスなのかな。
2003.11.10