邦題を「飛べない創造物」としたこのアルバムは、スウェーデン生まれのキーボード・プレイヤー、ヤンス・ヨハンソンのアルバムだ。ジャケットも地味だし、このアルバムを聴くまでヤンス・ヨハンソンのことはほとんど知らなかったのだが、ベースがジョナス・エルボーグであること、今はなきジムコジャパンから発売されたCDということで、中古CD店で見つけて購入した。ジムコジャパンは不思議なレーベルで、マサカーやマテリアル、ゴールデン・パロミノス、ビル・ラズウェルといったニューヨークの先進的なミュージシャンを日本に紹介する役割を果たしていたが、ジャコ・パストリアスやフランク・ギャンバレ、ジョン・マクラフリン、アラン・ホールズワースといったジャズ系のアーティスト、リック・ウェイクマンやキース・エマーソン、ソフトマシーンというプログレ系、ボブ・マーリーやジミ・ヘンドリックス、そしてドッケンやサムソンといったヘビーメタル・ロック、ブリジット・バルドーやガゼボまでカバーしていた。大いに期待していたレーベルだったので、倒産したと聞いたときはショックだった。それ以来、中古CD店でジムコのアルバムを見れば、とりあえず買ってみようという姿勢で見てしまうのだ。
このアルバムはキーボードのヤンス・ヨハンソンとドラムで兄のアンダース・ヨハンソン、そしてベースのジョナス・エルボーグのトリオによるものだ。ヤンスとアンダースの兄弟は、シルバー・マウンテンのデビューアルバム「シェイキン・ブレインズ」に参加したことで有名になったらしい。その後ヤンス・ヨハンソンはイングウェイ・マルムスティーンのバンド「ライジング・フォース」に参加した後は、DIOやストラディバリウスといった、どちらかといえばヘビーメタル系のバンドに参加したことで有名のようだ。だがその間にも、ジョナス・エルボーグのアルバムやアラン・ホールズワースとのアルバム、ジンジャー・ベイカーのアルバムにも参加したりしたようだ。
このアルバムはプログレ的な作品で、キング・クリムゾン的な雰囲気もある。収められているのは4曲で、いずれもトリオとしてのバンドの良さが表れている。ジョナス・エルボーグのベースも前に出ていて気持ちいい。1曲目「神の小さな過失」は5拍子の曲で、最も「クリムゾン的」と言っていい曲だ。シーケンス的なフレーズが曲の中心をとっており、やや平坦な印象を受ける。2曲目「イン・トランジット」は中間部分にキーボード・ソロがフューチャーされている。これが実に気持ちいい。途中からリズムが変わるところも面白い、ドラマ感あふれる13分50秒の大作だ。3曲目「メジッド」、この曲も複雑な変拍子の曲だ。最後の4曲目「手旗信号」は、冒頭の数小節を過ぎた後、リズム感のない現代音楽風の音のコラージュとなる。それから次第にリズム感が沸いてきて大団円に至る。ヤンス・ヨハンソンのソロ・プレイが光っている。後半のアバンギャルドな展開もスリリングだ。
このアルバムは1990年に作られ、1991年にミックスダウンされたとある。このCDは1992年にジムコジャパンから発売されたものだ。
2003.8.18