Mambo Sinuendo / Ry Cooder Manuel Galban


これまで紹介してきたアルバムは、いずれもキューバの伝統的な大衆音楽に基づくものだった。だが、これは違う。キューバ音楽を新しく解釈した革新的なアルバムだ。ライ・クーダーとマヌエル・ガルバン。ライ・クーダーは「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」をまとめあげたアメリカ人ギタリスト。マヌエル・ガルバンはキューバ人のギタリストだが、これまでもかなり新しい音楽的アプローチをキューバ音楽に持ち込んで有名な人らしい。

ピュアなエレクトリック・ギターの音色を楽しめるアルバムというのは以外に少ないものだ。このアルバムにおけるマヌエル・ガルバンのギターは、実に素朴な音色をしている。そしてこれほどストレートなエレクトリック・ギターの音が心地よいと思ったことはない。ギターアンプの箱鳴りが感じられるようだ。音の味付けは、アンプのリバーブとトレモロだけである。

アルバムタイトルの「マンボ・シヌエンド」だが、「マンボ」は「マンボの王様」とも呼ばれるペレス・プラードによって1940年代に作られたスタイルだ。彼はキューバの音楽にモダンジャズの要素を取り入れ、それを「マンボ」と呼んで世界中に紹介し有名となった。ニューヨーク生まれのプエルト・リコ系アメリカ人、ティト・プエンテによる演奏も有名だ。これらの音楽は日本には1950年代に持ち込まれてブームを呼んだようだ。「シヌエンド」は造語のようだが、スペイン語の形容詞で「シヌオソ」という言葉があり「曲がりくねった」という意味を持っている。ライナーにはライ・クーダーの言葉で「これといって意味はないんだ。(中略)なんというか、たとえば、何か水のようなものが流れる・・・流動的な感じ・・・。」といった解説がある。またマヌエル・ガルバンの言葉として「道をジグザグに歩くような、道の真ん中から脇に逸れたりの繰り返し・・・そんな感じのマンボだ。」とある。ふわふわしたギターサウンドは、まさに「シヌオソ」と言っていい雰囲気だ。

実に不思議な雰囲気を持ったアルバムで、聴くたびに癖になってしまいそうな魅力がある。ギターがライ・クーダーとマヌエル・ガルバンで、ライ・クーダーは曲によってスチール・ギターやトレスに楽器を持ち替え、ヴァイブ、ピアノ、コンガ、ベースと幅広く演奏している。主なメンバーは、ドラムがジム・ケルトナー、ベースがオルランド・カチャイート・ロペス、コンガがミゲル・アンガ・ディアス、といったところ。いくつかの曲でヨアヒム・クーダーもドラムを叩いている。ほとんどがインストルメンタル曲だが、ジュリエットとカーラという女性デュエットがタイトル曲の「マンボ・シヌエンド」と「モンテ・アデントロ」の2曲だけ参加している。清々しい声だ。

アルバムは9曲目、ドラマチックな印象のバラード「君の瞳の中の月」が終わると、ライ・クーダーとマヌエル・ガルバンのギター、そしてオルランド・カチャイート・ロペスのベースによるトリオで、とても静かな曲を聴かせてくれる。この10曲目「シークレット・ラヴ」はアメリカのヒットソングのようだ。3人のミュージシャンによるサウンドは、まるで一つの楽器から紡ぎだされるように感じられ、感動の余韻を残しながら、アルバムはまるでここで終わってしまうかのように思われる。だが、しかし、この後もオリジナル曲の「ボレロ・ソナンブロ」、キューバの有名な作曲家であるエルネスト・クレオーナの「マリア・ラ・オ」の2曲がある。これらは、いわば「シークレット・ラヴ」で終わったコンサートのアンコール曲のような印象だ。

このアルバムは2003年に発表された。このCDはワーナーミュージック・ジャパンから発売された日本版だ。余談だがジャケットにかぶせてある紙ケースはキラキラと光る銀色の光沢紙でできており、スキャンした後の色調節に苦労した。雰囲気が伝わればいいのだが、とても豪華な雰囲気のあるデザインだ。

2003.7.22