Soul To Soul / Stevie Ray Vaughan And DOUBLE TROUBLE
「ギターを弾くために生まれてきた男」スティーヴ・レイ・ヴォーンのサードアルバムだ。「ソウル・トゥ・ソウル」まさにこのアルバムからは、彼の心から溢れ出る音楽への思いが伝わってくる。
ファーストアルバムを聴いたとき、音の塊がばらばらと投げつけられるような気がした。クランチなブルース・コードをミストーンなく凄まじい速さで弾きまくるギターには戦慄すら覚える。そこには思いつめた心というか、何かに取り憑かれたような鬼気迫るものがあった。確かに素晴らしい演奏であったが、それを聴くこちら側にもそれなりの覚悟が必要であり、ある種の恐さを感じるものだった。だがこのアルバムは、熱い演奏の中に吹っ切れたような爽快さがある。
アルバム全体を通して、体をゆらりゆらりと揺らすようなグルーヴ感で覆われている。スローなノリだ。そしてスティーヴのギターは、きちんと計算されたソロ・プレイを披露するというよりも、手癖を隠さず馴染みのフレーズをのびのびと弾いている感じだ。ひとつひとつのトーンを満足のいくまで長く引き伸ばして心地よい気持ちにさせてくれる。そう、新しいことは必要ない。ただお前のギターが聴きたいだけなんだ。そういう気持ちを満足させてくれるアルバムだ。
1曲目の「セイ・ホワット!」はインストゥルメンタル曲なのだが、一部「ソウル・トゥ・ソウル」というヴォーカルがはさまれ、実質的にアルバムのタイトル曲といえるものだ。この曲には彼独特のギターフレーズが随所に披露され、まさにこのアルバムを代表する曲といえる。スティーヴのオリジナル曲で、ギターを弾くということを、伸び伸びと本当に楽しんでいる様子が感じられる。
2曲目の「ルッキン・アウト・ザ・ウィンドウ」はD.Bramhallの曲で、ギターを細かく刻むリフが印象的。浮遊するようにタメるコード進行も気持ちいい。3曲目「ルック・アウト・リトル・シスター」はH.Ballardの曲で、ブルースの原点を感じる。もったりとしたリズムもいいし、ピアノとサックスが曲をゴージャスに飾り立てている。
4曲目「ギブ・アップ・オン・ラヴ」はオリジナル曲。スローなリズムで愛を信じる男のせつない心が歌われるブルース。5曲目「ゴーン・ホーム」はE.Harrisの曲で、ジャズの要素とブルースが溶け合った名曲だ。6曲目「チェンジ・イット」はD.Bramhallの曲で、粘っこいギターのリフがいい。7曲目「ユール・ビー・マイン」はW.Dixonの曲。テンポの早い軽快な曲で、スティーヴお得意の感じ。8曲目「エンプティ・アームス」はオリジナルでちょっとコミカルなイメージのある軽い曲。9曲目「カム・オン(パート3)」はE・キングの曲で、ロック色が感じられる。そして最後10曲目はオリジナルの「ライフ・ウィズアウト・ユー」で静かにアルバムは閉じられる。これほどの感動で閉じられるアルバムは、そう、ない。
しかし嬉しいことにCDはまだ終わらない。10秒ほどの空白の後、ジミ・ヘンドリックスのギターについてスティーヴへのインタビューがあり、ライブ録音らしい13分32秒にもおよぶジミ・ヘンドリックスの曲「リトル・ウィング/サード・ストーン・フロム・ザ・サン」のメドレー、そしてスティーヴのオリジナル曲「スリップ・スライデン・スリム」がボーナストラックとして収められている。この2曲が熱い。とりわけ「リトル・ウィング/サード・ストーン・フロム・ザ・サン」のメドレーは、魂を抜かれるのではないかと冷や汗が流れるほどの緊張感がある。
10曲目の「ライフ・ウィズアウト・ユー」で終わるもよし、「リトル・ウィング/サード・ストーン・フロム・ザ・サン」で魂を抜かれるのもよし。どちらでも好きな方で心を奪われてくれ。このアルバムは1985年に発表された。このCDは1999年にEpicRecords/ソニー・ミュージック・エンタテインメント・ジャパンから発売された日本盤だ。ビルボード誌の編集長であったティモシー・ホワイトによる解説が日本語に訳されていて、エリック・クラプトンとのジャム・セッションの様子や、スティーヴ・レイ・ヴォーンとの対談のことが書かれていて興味深い。
2002.7.15