Absolutely Free / The Mothers Of Invention


久しぶりに音楽について語りたい気分になってきた。だが長い間このページを書かずにいたので、いざ書き始めようと思いたってから、どんなアルバムを紹介しようか考え込んでしまった。せっかくだから超大物について書くことにする。フランク・ザッパだ。

フランク・ザッパを一番最初に聴いたのは、確か「ShipArrivingTooLateToSaveADrowningWitch(邦題は「たどり着くのが遅すぎて溺れる魔女を救えなかった船」)というアルバムだった。ニューウェーブの洗礼にあい、どんな音楽でも聴いてやれ、という貪欲な精神状態のときで、ザッパのことをほとんど知らずに聴いていた。演奏技術も優れていて楽曲の完成度も高く、サウンド的に十分満足するアルバムだった。それから安い輸入盤を見つけて「SleepDirt」「StudioTan」「OrchestralFavorite」を聴いた。

それから当時名盤と謳われていた「Joe’sGarage」や「FillmoreEast−June1971」、「BurntWeenySandwich」などを聴いたが、どれもピンと来なかった。それからしばらく経って、ザッパの面白さが一瞬にしてわかったのは、「YouAreWhatYouIs」を聴いてだった。これは見事だった。流れるように完成度の高い楽曲が、シニカルな歌詞とともに怒涛の如く襲いかかるアナログレコード・ディスク1のA面は凄かった。このアルバムで、ザッパは楽曲の素晴らしさとともに、歌詞をしっかりと味わわないと駄目だ、と気が付き、俺のザッパ観は大きく変わった。

それからはCDで日本盤のシリーズが出てから、しばらくザッパ三昧の日々が続いたのだが、ザッパを聴き込むにつれて、初期のアルバムの素晴らしさが次第にわかってきた。とりわけファーストアルバムの「FreekOut」は、フランク・ザッパの原点として珠玉の光を放っている。そして演劇的な要素を深め、さらに完成度を高めたのが、この「AbsolutelyFree」である。単なる「Free」ではなく「AbsolutelyFree」である。これは、もう、絶対的なフリー・ミュージックなのだ。

ファーストアルバムと比べたこのアルバムの特徴は、サウンド的にはフランク・ザッパのギターが大きくフューチャーされていることだろう。ファーストアルバム「フリーク・アウト」では、1曲目の「HangryFreeks,Daddy」以外、ソロ・プレイを聴くことはできなかったし、そしてこれはどちらかといえば「野暮ったい」と感じるプレイであった。しかし、このセカンドアルバムでは6曲目「InvocationAndRitualDanceOfTheYoungPumpkin」でクールなソロ・プレイを7分にわたって聴かせてくれる。

歌詞においてはファーストアルバムに比して、よりアグレッシヴにシニカルに、またポリティカルな内容になっている。俺の手元には2種類の日本盤CDがあるのだが、MSI/TOKYOがフランス盤のCDを輸入して解説を付けて日本盤として発売したものには、谷口まもる、片岡洋の両氏による解説が書かれていて、これには当時のフランクザッパのステージングについて”ジャズ&ポップス誌”1960年9月〜10月号に掲載された、フランク・ザッパへのフランク・コフスキーによるインタヴューが引用されている。これによると当時のステージも凄まじかったようで、たまたまザッパのステージを見にきていた海兵隊の男たちに飛び入りのステージで歌を歌わせ、「軍隊の基礎訓練をしよう」とプラスチックの人形を引きずり出し、手足を引きちぎりバラバラにさせたということだ。客席は静まり返り、コンサートを見に来ていたヴェトナム帰りの帰還兵はすすり泣きをしていたという。このようなステージをニューヨークのギャリック・シアターで1967年の5月から9月の5ヶ月間、レギュラーバンドとして行っていたが、300人収容のホールに客は数人しかいない、ということはザラだったとのことだ。

それにしてもこのアルバム、いったん聞き始めれば1曲目から最後の15曲目までの43分42秒、ザッパの魅力から逃れることはできない。アナログレコードなら「盤を裏返す」という中断が入ったはずだが、CDならば中座されることなくトリップできる幸せを味わえる。さあ、スモモ公爵やデカ足のエマ、バーニー叔父さん、スージー・クリームチーズたちと奈落の底に落ちてくれ。14曲目「BrownShoesDon’tMakeIt」でぐじゃぐじゃになれることを保証してやる。

さて実はビートルズが「サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド」を作るにあたって、この「アブソリュートリー・フリー」を真似た、という話があるのだが、これはサードアルバムを紹介するときに詳しく書く。

このアルバムは1967年に発表された。このCDは、1988年にリマスターされてBarkingPumpkinRecordsから発売されたフランス盤を、MSI/TOKYOが日本語の解説をつけて国内販売したものだ。CDの裏には、CleanAmericanVersion、2AdditionalTracksと記されている。これは「ビッグ・レッグ・エマ」と「ホワイ・ドンチャ・ドゥー・ミー・ライト」のことを指していると思われ、当初はシングル盤として発売された曲らしい。

2002.7.12