The Modern Dance / PERE UBU


1980年代はじめにニューウェーブの波が押し寄せた頃、奇しくも日本ではレンタルレコード店が流行し始めた。おかげで様々な音楽に触れることができたのだが、その反面、当時耳にした多くの音楽は、ただ記憶の中に留められるだけで、再び聴くことができなくなったものも多い。この「失われた80年代」を求めることが、俺の一つの目標となっている。ペレ・ユビュも当時の代表的なニューウェーブ・パンクバンドだった。

アルバムにクレジットされたペレ・ユビュのメンバーは、トム・ハーマンTomHerman、スコット・クラウスScottKrauss、トニー・メイモンTonyMaimone、アレン・ラヴェンスタインAllenRavenstine、デヴィッド・トーマスDavidThomasの5人。「ペレ・ユビュ」とはフランスの作家、アルフレッド・ジャリによる戯曲のタイトルからとられたようだ。「ペレ」はフランス語で「親父」の意味。戯曲「ペレ・ユビュ」は一般に日本語では「ユビュ王」といわれている。俺はこの戯曲を読んだことがないのだが、Webでヒットするページを見てみると愛読者も多いようだ。

耳に突き刺すようなノイズで始まるアルバムだが、おそらく誰もが最初に受ける印象は、ボーカルの個性的な声だろう。引きつるように高く裏返るようでいて、喉の奥にくぐもっている。そして聴きこむにつれ、ソリッドなギターやアバンギャルドなサックスに魅力を発見することだろう。ペレ・ユビュの魅力は、ハードで攻撃的なパンク的手法の中に、ロマンティシズムが溢れているところだ。このアンバランスな調和は、当時のパンク・ニューウェイブ・シーンに置いても珍しいものだった。

1曲目の「Non−alignmentPact」、2曲目のタイトル曲「TheModernDance」と軽快なナンバーが続く。ベースラインが曲をリードし、ドラマチックでありながらスピード感の溢れる演奏となっている。3曲目「Laughing」は歯切れの良いギターのカッティングに、サックスのソロが脳内を駆け巡る。それにしても、このギターの豊かな音色は何だろう。ほとんどエフェクトをかけないストレートな音でありながら、腰に響いてくるような深いサウンドだ。4曲目「StreetWaves」はブリティッシュロックの伝統的なアプローチに近い。中間部分でゴロゴロとノイジーなギターサウンドが心地よい。5曲目「ChineseRadiation」はエレ・アコ風のギターで静かに始まるが、途中、ライブ録音を想起させるような演出で盛り上る。実は以前からデヴィッド・トーマスの歌い方や発声は、ロキシー・ミュージックのブライアン・フェリーに少し似ていると思っていたのだが、この曲を聴いてるとジェネシスのピーター・ガブリエルにも似ているように感じる。

さあ、アナログレコードB面、6曲目の「LifeStinks」だ。このアルバム中で1:53と最も短い曲だが、アグレッシヴで完成度が高い。ブンブンうなるベースで印象的に始まり、デヴィッド・トーマスのボーカルも鬼気迫っている。ギターとサックスのソロ・プレイは凄まじい格闘を見せる。素晴らしい。7曲目「RealWorld」も意欲的な曲だ。ここではリングモジュレーターがふんだんに使われ、曲全体がねじまがったサウンドに仕上がっている。8曲目「OverMyHead」でもリングモジュレーターは使われるが、この曲では先の曲と異なり幻想的なイメージを作り出すことに成功している。デヴィッド・トーマスも弱くかすれた声で静かに歌う。9曲目「SentimentalJourney」は、機械仕掛けの何かが動いたような音に、ガイガー・カウンターのようなノイズ、ガラス瓶の割れるような音などがコラージュされたサウンドイメージで始まる、フリー・インプロビゼーション的な曲。頭の天辺を突き抜けるようなサックスと、かきむしるようなギターがエクスタシーへと導いてくれる。そしてアルバム最後の10曲目「HumorMe」で、比較的落ち着いた印象でアルバムを閉じる。

ペレ・ユビュの代表作としては、セカンド・アルバムの「ダブ・ハウジング」が紹介されることが多いように思うが、俺としてはこちらのアルバムの方が素晴らしいと思うぞ。このアルバムは1977年11月に録音され、1978年に発表されたペレ・ユビュのファーストアルバムだ。BlankRecord/Phonogram,Inc./PolygramCompany/Phonodiscから発売された米盤のアナログレコードだ。


2001.10.1