Off White / James White And THE BLACKS


コントーションズを始めて聴いたのはラジオ番組だった。それは彼らの代表曲と言っていいだろう「コントート・ユアセルフ」だったのだが、それは、もう、強烈な体験だった。あのとき聴いた「コントート・ユアセルフ」は、イーノがプロデュースしたコンピレーション・アルバム「ノー・ニューヨーク」からだったと思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。今となっては確かめようもないのだが、セカンドアルバム「バイ」にも同曲が収録されているようなので、こちらのものだったのかも知れない。このアルバムにも「コントート・ユアセルフ」は収められているが、あのときラジオで聴いたものは、もっと脳天から体がよじれるような演奏だった。

アルバム解説の大貫憲章氏によれば、ジェイムズ・ホワイトはアメリカ、ウィスコンシン州の生まれで、1970年代にニューヨークで音楽活動を始めたという。アヴァンギャルドなジャズ・プレイヤーとして活動し、ティーンエイジ・ジーザス・アンド・ジャークスのメンバーとなったこともある。このバンドにはリディア・ランチも在籍していた。自らリーダーとしてザ・コントーションズを結成したのは1977年であるそうだ。当時は「ジェイムズ・チャンス」と名乗っていたようで、「ジェイムズ・チャンス」名義の演奏も当時ラジオで聴いた覚えがある。前述したコンピレーション・アルバム「ノー・ニューヨーク」が発売されたのは1978年で、コントーションズとティーンエイジ・ジーザス・アンド・ジャークス、マーズ、DNAの曲が収められていたようだ。このアルバムも再び聴きなおしたいところなのだが、手元には今ない。

ここに紹介するアルバム「オフ・ホワイト」は、ジェイムズ・チャンスが名前を「ジェイムズ・ホワイト」と改め、「ザ・コントーションズ」とのバンド名を「ジェイムズ・ホワイト・アンド・ザ・ブラックス」と改め、1978年に発表された、彼の実質的なファーストアルバムだ。アメリカのオンライン・マガジン「パーフェクト・サウンド・フォーエバーPerfectSoundForever」による1997年のインタービューでリディア・ランチは、ティーンエイジ・ジーザス・アンド・ジャークスについて「あれはすごくアンチパンクだったと思う。パンクのことを考えると、セックス・ピストルズやクラッシュなんかが思いつくけど、あれはみんなロックバンドだと思ってた」と語っている。確かにジェイムズ・チャンス=ジェイムズ・ホワイトに集まったコイツラは単色ではない。ジャケット裏にメンバーの写真が載っているが、まさにゴッタ煮状態だ。この雰囲気は、俺の知る限りではロキシー・ミュージックのファーストアルバムに見られるメンバーの写真に近い。クリックすると拡大するのでじっくり見て雰囲気を味わってくれ。


コントートcontortとは「強くねじる、ひどく歪める」という意味だ。1曲目は彼らの代表曲らしい「コントート・ユアセルフ」。スピード感のある曲だ。2曲目は何やらイカガワシイ雰囲気の女の声が全編に流れる物語風の「汚れたシーツ」、3曲目はスカの香りも感じる「(トロピカル)ヒート・ウェイヴ」。ジェイムズ・ホワイトのとぼけたサックスが、上手いんだか下手なんだが異様な雰囲気。ロック界のオーネット・コールマンとでも呼びたい気分だ。4曲目はギターが前に出た即興演奏を楽しめる「オールモスト・ブラック」。7’38”の曲でこれがアルバム中最も長い曲。「ブラック」になりたいジェイムズ・ホワイトの気持ちが歌われているのだろうか。ボーカルはランディ・マーローという女性。

B面の4曲は全部インストルメンタル曲だ。「白い野蛮人」「オフ・ブラック」「ホワイト・デヴィル」「ブリーチド・ブラック」。曲名の付け方から「ブラック」的なもの、白人であること、にこだわっているようだ。ユーモアも感じるA面に対して、B面の4曲はシリアスで攻撃的。いずれも緊張感があるインストルメンタル曲だ。即興性を重視した、ノイジーなインプロビゼーションが味わえる。タイトなドラムス、ノー・エフェクトの生々しいベース、このリズムをベースに、ジェイムズ・ホワイトの「ねじれた」サックスとノイジーなギターが絡む。とりわけ「オフ・ブラック」は後半に速度を増してのぼりつめる迫真の演奏だ。打楽器のような扱いをされるギターの音も心地よい。

クレジットされているメンバーを紹介しておこう。ドン・クリステンセンDonChristensen(Drums)、パット・プレイスPatPlace(SlideGuitar)、ジョディ・ハリスJodyHarris(Guitar)、ジョージ・スコットJeorgeScott(Bass)、そしてジェイムズ・ホワイトJamesWhiteだ。ゲストとしてAdeleBertei(Piano)、KristianHoffman(Piano)、PaulColin(TenorSax)、BobQuine(Guitar)、RayMantilla(Congas)、VivienneDick(Violin)、そしてリディア・ランチLydiaLunch(Guitar)の名前もある。また2曲目の「汚れたシーツ」はジェイムズ・ホワイトとリディア・ランチの共作名義だ。この曲でのボーカルは、ジェイムズ・ホワイトとStellaRico、「(トロピカル)ヒート・ウェイヴ」のボーカルは、GingerLeeとTadAmong、「オールモスト・ブラック」のボーカルは、RandiMarloweとLittleWillieFeatherとなっている。

このアルバムは1979年に発表された。ZEレコード/東芝EMI株式会社から発売された日本盤のアナログレコードだ。中古を手に入れたが、見本盤らしい。レコードのレーベルはコピーで作られたような粗雑さで、いかにも見本盤らしい。


2001.9.25