グループ名は「EP−4」、アルバムタイトルは恐らく「LinguaFranca−x」なのだが、ジャケットには大きく「昭和崩御」と書かれている。確か当時かなりの物議をよんだアルバムだ。もしかしたら批判を避けるためにタイトルを無難なものに変えたのかもしれない。1983年といえば昭和58年、まだ昭和天皇は健在だったからだ。だが事の是非は別として、アルバムタイトルに特に意味があったとは思えない。
これは正式なアルバムではなく、A面に1曲、B面に2曲が収められた、45RPMのマキシシングルだ。デザインは非常に凝っていて、威厳をすら感じさせる鶏の写真、裏ジャケットの錦鯉の写真は、写真家であるとともに批評家である藤原新也氏のものだ。中に収められたジャケット大のブックレットは極めて薄い灰白色の印刷によるもので、斜めに光源をあてながら目をこらして読まないと判読できない。しかも部分的に文字が裏返しに印刷されていて、それがまた小さな文字なので鏡に写して読むことも不可能と言っていいくらいだ。
もう少しブックレットを紹介してみよう。表紙には「夜想/Extra/LinguaFranca−X」の文字がある。次のページはこうだ。「彼方より訪れるヴァイブレーション/EP−4/LIFE TIDES/生命の中に宿る音像/渦の闇に胎動する一本の思考線/闇の明線/重量という思考を展開する唯一の波動/鉱物を胎動させる動機/月光を孕む羊水の記憶/低周波を内蔵するユニット/EP−4/7日間ごとに襲い来る銀河の波動/肉体のなかに流れる塩の黙示禄/白い流跡を秘跡のように啓示する/海が創造していたのが信仰という原初キリスト者への可能性」といった具合だ。
細かな文字をなんとか読んでいくと、EP−4についての記述がある。発足はもともと京都のとあるディスコであるようで「今は亡き京都の先鋭的なニュー・ウェイヴ・ディスコ。佐藤薫が企画にたずさわり、内外の斬新な音をいち早くとり入れ紹介し、新しい音づくりのための刺激を与え続けた。一時期京都に滞在中のデヴィッド・ボウイがよく顔を見せていた。80年6月、佐藤薫を中心に、この店に集まってきた音好きの連中によってEP−4が結成される」とある。
さて肝心のサウンドだ。ブックレットから曲名を読み取ることができず、レーベルに書かれた1曲目らしいものは「COCO」だ。ゆったりとしたリズムの中に様々な音が交じり合い、混沌としたウネリを感じさせる音楽だ。カウベル、スネア、バスドラ、ベース、様々な電子音、ギター、呟き声、叫び声。「音のるつぼ」といった印象だ。ある面「多国籍」の雰囲気を感じるし、また「祭り囃子」のようにも思える。これはA面すべてを使った8分弱の曲。B面は「dB」、「ZOY」と名付けられたらしき2曲がある。最初の「dB」は、ややクールな印象で、ドラム、ベースのリズムに、ピコピコと繰り返しの電子音シーケンスフレーズとともに、リバーブの深くかかった男の声が重なる。続く「ZOY」はサンバ風のリズムでアグレッシブに迫ってくる。しかしリズムはゆっくりめで、やはりリバーブが深くかかった、地の底から響いてくるような男の声が不気味な雰囲気だ。脳内リズム的でありながら肉体の動きも汗も感じる不思議なドライヴ感がある。
こんな紹介でわかってもらえただろうか。これは1983年に発表されたもので、AtelierPeyotlから980円で発売された日本盤のアナログレコードだ。レーベルには「NotForSale」と書かれているので、俺の持っているのはサンプル盤かも知れない。
2001.9.18