クラフトワークのファーストアルバムとセカンドアルバム、そしてサードアルバムにあたるこのアルバムは、彼ら自身の希望から廃盤となりCD化もされていないという。夏に所用で岡山へ行ったときだったと思うが、偶然見つけた街角の中古CD店にクラフトワークの「1」と「2」があった。どちらも工事現場のコーンをデザインしたジャケットで、色違いだったが、あれは恐らく海賊版であったのだろう。そういえばこのアルバムにも描かれている工事現場のコーンだが、これは彼らが自ら「工事中」であることを暗示しているのだろうか。
確かに次のアルバム「アウトバーン」から始まる全盛期ほど強烈なオリジナリティーは感じられないが、シンセサイザーを他の楽器の代替としてではなく、新しい楽器として使おうという意欲に満ちたアルバムだ。1曲目「ElektrischesRoulette(ElectricRoulette)」は呻き声のような機械音で始まるが、彼ら独特の軽やかにスキップするような安っぽい電子ピアノに生ドラムが重なる明るいイメージの曲だ。後半はリズムのテンポを上げ、彼らには珍しく感情的に盛り上がる。2曲目「Tongebirge(MountainOfSound)」は叙情的なメロディーのフルートで始まり、明るくポジティブで未来指向的な曲。3曲目「Kristallo(Crystals)」はシーケンサーのビートをリズムに電子ピアノがインプロビゼーションをとる曲。後半はテープの早回しのように速度を上げコミカルに展開する。4曲目「Heimatklange(TheBellsOfHome)」はピアノとフルートにシンセサイザーがブレンドされて、「クラスター・アンド・イーノ」のような静寂な世界を作っている。
B面に移って5曲目「Tanzmusik(DanceMusic)」はリズムボックスの一本調子のリズムに電子ピアノやシンセサイザー、そしてトライアングル、シンバル、鈴、手拍子などが重なる軽快な曲。ここに「アウトバーン」の原型を見ることができる。最後の6曲目「AnanasSymphonie(PineappleSymphony)」は13分55秒とアルバム中最も長い曲だ。複雑に変化するいくつかのパートで組み立てられていて、あたかも映画のサウンドトラックかのようだ。
演奏を記録する手段であった録音という行為が目的化し、音楽が演奏することから記録することへと変貌を遂げる瞬間が、このアルバムにある。このアルバムは1972年に発表された。これは1975年にPhonogramから発売された米盤のアナログレコードだ。輸入盤店でいわゆるカット盤として販売されたもので、ジャケット左下が数センチ程度切られている。上の画像は修正を加えたものだ。
2000.11.3