Autobahn / KRAFTWERK


KRAFTとは「力」、WERKは「働き」、そして「KRAFTWERK」は「クラフトヴェルク」で発電所の意味。高校生の俺にはそんなことを知るだけで十分に魅力的だった。だが大学に入って一般教養でドイツ語を習うのだが、学業すべてに興味を失っていた当時の俺には、ドイツ語の文法は途方も無く難しかった。覚えている。ドイツ語でお世話になったのは竹内先生だ。4回生になっても一般教養の語学の単位が足りなくて迷惑をかけたことが恥ずかしい。だが臆面も無く白状すると、今でもドイツ語を真面目に勉強したい欲求はあるんだ。

クラフトワークの音楽は、このアルバムで有名になり、おそらく「ヨーロッパ特急」と「人間解体」が最も有名なアルバムだと思う。しかし彼らの歴史は決して順調漫歩だった訳ではない。私を含めてこれら絶頂期のアルバムに親しんできたリスナーには、クラフトワークは4人編成と思われているに違いないが、その中心となるのはラルフ・ヒュッターRalfHutterとフローリアン・シュナイダーFlorianSchneiderの2人だ。

アルバム解説のたかみひろしさんによると、二人はRemscheid音楽院で1968年に出会い、音楽活動を始めた。彼らはOrganisationという名前で1969年に英国でアルバムを発表した。ドイツでは彼らの音楽に理解を示すレコード会社はなかったらしい。観客も同様で「ベルリンのコンサートでは、キュウリとトマトが投げ込まれた」という逸話が紹介されている。後にフローリアン・シュナイダーは「あれは大失敗だった」と語ったらしい。だが、そう言われればなおさら、聴いてみたいアルバムではないか。彼らの音楽性の原点に触れることができる気がする。

だが書籍「ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・プログレッシヴ・ロック」ではクラフトワークの「1」と「2」、「ラルフ・アンド・フローリアン」は彼ら自身の意向により廃盤となっていてCD化もされていないと明石政紀さんが書かれている。それならばなおさら「オーガニゼーション(ドイツ語ではオルガニザチオーン)」のアルバムを聴くのは難しいに違いない。

「アウトバーン」はアメリカでラジオ曲のオンエアによりヒットすることになる。だがこのアルバムのB面に注意深く耳を傾けたリスナーはいったいどれほどいるだろう。「Kometenmelodie1(彗星の旋律1)」「Kometenmelodie2(彗星の旋律2)」「Mitternacht(真夜中)」「Morgenspaziergang(朝の散歩)」の4曲は、A面のコマーシャル性と対照的な叙情性を受ける。「彗星」と呼ぶにはあまりにも重苦しい「Kometenmelodie1」から霧が晴れたかのように爽やかな「「Kometenmelodie2」。ハモンドオルガンの荘厳な響きにシンセサイザーの不思議な音が重なる「Mitternacht」。鳥の鳴き声と軽やかなフルートの音色、ピアノ。シンセサイザーと生楽器の見事な調和が「Morgenspaziergang」には、ある。「音楽」と呼ぶにはあまりにも儚い小品だが、アルバムの最後を締める印象的なトラックだ。

このアルバムは1974年に発表された。これは日本フォノグラムから発売された日本盤のアナログ・レコードだ。当時の廉価盤によく見られたのだが、ジャケットの裏にライナーが印刷されている。ジャケット・ワークも作品の一部とすれば、いささか悲しい装丁ではあるが、レコード店で買う前に開封せずにライナーを読めるところはありがたかった。


2000.11.2