A Night At The Opera / QUEEN


このアルバムは一般にクイーンの最高傑作と言われている、彼らの4枚目のアルバムだ。俺はこのアルバムをそれほどじっくり聴き込んだという覚えはなかったし、おそらく20年ぶり、というくらい久しぶりに耳にしたのにもかかわらず、どの曲もリアルな印象が甦ってきた。記憶の奥にしまいこまれていたはずの音が、一挙に脳裏に浮かびあがった。耳から入ってくる音と肉体が覚えている音がシンクロした。きっと当時の俺は理解できない感動に出会って混乱し、このアルバムを咀嚼できないまま脳の奥深くに焼き付けてしまったに違いない。

ファーストアルバムから一貫した姿勢であるが、彼らはアルバムの最初に凄まじいエネルギーを放つ曲を用意してくる。このアルバムの冒頭を飾るのは「デス・オン・トゥ・レッグス」だが、この曲を聞き終えた時には、すでにアルバム一枚を聴き終えたような衝撃を受ける。罵倒の限りをつくした曲だ。この曲は一般的には当時トラブルがあったマネージメント側に対する悪態と言われているが、俺が思うにおそらく絶好調の彼らは自らの音楽活動を妨げるあらゆる状況に対して怒りをぶつけたに違いない。巨大なエネルギーの発露に戦慄する。

2曲目「レイジング・オン・ア・サンデイ・アフタヌーン」は邦題が「うつろな日曜日」とあるが、「うつろ」という言葉はぴったりしない。「のんびり過ごす」ことを楽しもうという歌だからだ。怒りを込めた1曲目とともに、この曲も当時の彼らの素直な気持ちであったに違いない。古い映画音楽を想起させるものだ。クルト・ワイルの時代を感じさせる。前作「シアー・ハート・アタック」でも様々なタイプの曲が見られたが、このアルバムでも5曲目の「’39」はアメリカン・トラッド・フォークだし、7曲目「シーサイド・ランデヴー」はラグタイム・ブルース、10曲目「グッド・カンパニー」はモントルー・ジャズだ。当時のロックバンドの中で彼らが他と違うのは、楽曲の中に様々な音楽の様式を取り込んでいながら「クイーン」という個性を浮き上がらせているところだ。おそらく彼らは音楽すべてを愛し、楽しんでいたに違いない。当時彼らを評価しない評論家はこのことを逆に「**の曲は**風である」と揶揄したようだ。

全てを語り尽くすことはできないが、珠玉の名曲がいくつもある。彼らの独壇場と言える物語風の大作「予言者の歌」や軽快なラブソング「シーサイド・ランデヴー」、ポップスの名曲となった「マイ・ベスト・フレンド」、そしてアルバム最後を締める「ボヘミアン・ラプソディー」だ。アルバム冒頭の「デス・オン・トゥ・レッグス」とともに、ここで聴かれるフレディ・マーキュリーの歌は、とてつもなくリアルに響く。「ママ、死にたくないよ」と叫ぶ声には胸を締め付けられるが、激しい情念に渦巻かれながら最後には「たいしたことじゃない/何があろうと風は吹くんだ」と無我の境地に到る。

もう一つこのアルバムを聴き通して気付くことがある。クイーンの曲は例えば誰かの物語であったり、社会の中の自分を歌ったり、あるいは父と子や、子と母といった普遍的な人間関係を歌ったものがほとんどだったが、このアルバムでは「僕」「君」と歌った曲が目に付く。

それにしてもクイーンはプログレッシヴだ。このアルバムは1975年に発表された。このCDは1994年に「クイーン・デジタル・マスター・シリーズ」として東芝EMI株式会社から発売された日本盤だ。

2000.8.25