クイーンはあらためてきちんと聴いてみたいと思い、ファーストから7作目の「ジャズ」までCDをまとめて購入した。歴史を辿りながら聴き込んでいこうと思ったのだが、このファーストアルバムを聴きながら、クイーンというバンドのとてつもないスケールを再確認し、先へ進めなくなってしまった。これは凄いアルバムだ。
ファーストアルバムにはそのバンドの全てが込められている、ということがよくあるのだが、このアルバム1曲目の「キープ・ユアセルフ・アライヴ(邦題は『炎のロックン・ロール』)」には彼らのロックに対する思い、というか生き方そのものが明確に歌われている。アルバムで対訳の山本安見さんの言葉で紹介しよう。
「その道がいかに厳しいか何度も忠告を受けた/もっと賢くならなきゃいけないともいわれた/だけど川をどれだけ渡ろうと/道をどれだけ歩もうと/僕は元の位置に立っているさ(中略)もう少しビッグになれば/そこが僕の終着点なのかも知れない/今まで出会った多くの人々に言われた/努力しつづけて自分を高めていくのだと/だけど川をどれだけ渡ろうと/道をどれだけ歩もうと/僕は元の位置にそのまま立っているさ(中略)日増しに自分が成長していると思うかい?/いやすべての道は/墓場に通じていると思っている/きみ自身を生かすんだ(中略)時間と金をうまく利用すれば/きみはなんとか生きのびられるのさ/自分自身を満足させるんだ」
とにかくどの曲も歌詞が凄い。フレディ・マーキュリーという人のあふれ出るパワーを感じる。「ドゥーイング・オール・ライト」では不安を感じながらも前に進むしかない心情を吐露し、「グレイト・キング・ラット」では権力の腐敗に勇気を説きながら、真実は自らの目で確かめるべきだと戒めている。「マイ・フェアリー・キング」では神話の世界を描きながら、残酷さも調和の中にあると歌う。「ライアー」には青年期の不安定な心情が綴られているし、「ザ・ナイト・カムズ・ダウン」には歩むべき道を失った絶望感がある。そして「モダン・タイムス・ロックン・ロール」ではロックの素晴らしさを素直に歌い上げ、「サン・アンド・ドーター」はゲイを連想させるものだ。そして「ジーザス」は神の伝説を称えている。これらの曲に込められたメッセージのどれもが、クイーン、いや、フレディー・マーキュリーそのものなのだ。
優雅なスタイル、あるいはアレンジの見事さなどで語られることが多いクイーンだが、このアルバムだけは対訳を見ながら歌詞をじっくりと味わって欲しい。このアルバムは1973年に発表されたもので、これは1994年に東芝EMIから「デジタル・リマスター・シリーズ」として発売された日本盤のCDだ。
2000.8.17