このアルバムはエアロスミスが第一黄金期を超えて停滞期に差し掛かる頃のアルバムだ。アルバム解説の平野和祥さんによれば、ジョー・ペリーが脱退することになったとき「この時点でアルバムは未だ完成していなかった。バンドの旧知の友人リッチー・スパや、ギター・テクニシャンを務めていたニール・トンプソンを使って不足分のギター・トラックを埋めることで急場をしのいだ。本作リリース後に正式にジョーの後任としてバンドに迎え入れられるジミー・クレスポも部分的に参加している」とのことだ。そう思えばギター・パートのいくつかにジョー・ペリーと思えぬ部分があることに気づく。
例えば1曲目「ノー・サプライズ」の出だしのリフは、いやに薄っぺらでジョー・ペリーらしくない。しかし曲中であの特徴あるドンガラした音のギターも聞こえる。ジョー・ペリーの最初のテイクにオーバー・ダブを加えたのではないかと思わせる。2曲目「チキータ」も変わった雰囲気のリフで怪しい。3曲目「リメンバー」はカバー曲だが、これもギターの音がジョー・ペリーらしくない。だが4曲目「チーズ・ケーキ」は、冒頭のボトルネック・ギターはやや怪しいが、途中からはいかにもエアロスミスといった展開になる。ソロの部分もジョー・ペリーに間違いない。そして5曲目「スリー・マイル・スマイル」はアルバム「ロックス」の絶好調の頃を彷彿とさせる素晴らしい曲。この曲がアルバム中で最もエアロスミスらしい。
6曲目カバー曲「リーファー・ヘッド・ウーマン」もソロは鼻に付く泣きのギターだし、ジョー・ペリーの香りはしない。7曲目「ボーン・トゥ・ボーン」はジョー・ペリーだろうか。しかしソロの部分は違うような気もする。8曲目「シンク・アバウト・イット」もカバー曲。これもギターはいやに泣きが入っている。全9曲のアルバム中3曲がカバー曲だが、これはバンドの作曲パワーが欠けていたのではないかと思わせる。そして最後はスティーヴン・タイラーの「ミア」だ。絶望に打ちひしがれたという雰囲気のこの曲では、スティーヴン・タイラーはまるで一人ぼっちになってしまったかのようだ。
当時のバンドのコンディションがどのようなものだったのか、リスナーには想像する以外にない。しかしジョー・ペリー脱退の経過を聞き、アルバムを聴くかぎりにおいては、つぎはぎだらけの作品と言わざるを得ない。とはいえ、スティーヴン・タイラーは好調だし、「チーズ・ケーキ」や「スリー・マイル・スマイル」のような魅力的な演奏も収められている。このアルバムは1979年に発表された。このCDはソニー・ミュージック・エンタテインメントから1993年に発売された日本盤だ。
2000.7.26