Done With Mirrors/ AEROSMITH


実はこのアルバム以降は、俺にとってはリアルタイムで体験したエアロスミスではない。ハード・ロックから遠ざかっていた俺には、エアロスミスの解散も再結成も、あまり心に残っていないというのが本当のところだ。実際エアロスミスをまた聴こうと思ったのは、アルバム「ゲット・ア・グリップ」を聴いてからなので、かなりのブランクがある。

エアロスミスは1976年「ロックス」、1977年「ドロー・ザ・ライン」と超強力なアルバムを発表し、頂点を極めた後の1979年にアルバム「ナイト・イン・ザ・ラッツ」を発表して失速する。ジョー・ペリーとブラッド・ウィットフォードの脱退だ。スティーヴン・タイラーはジミー・クレスポとリック・デュフェイの2人を加えてエアロスミスを続行、アルバム「美獣乱舞/ロック・イン・ア・ハード・プレイス」を発表するが、エネルギーの減退は否めずマスコミからは解散説がささやかれるようになる。しかしファンの間でハード・ロックの再評価が高まる中で1985年に再びオリジナル・メンバーで発表したのがこのアルバムだ。

なぜエアロスミスが今再びロックシーンに受け入れられたのか、との問いに対してスティーヴン・タイラーは「彼ら(ファン)は本物のミュージシャンの演奏を聴きたいのだろう。本当にギターが弾けて、自分が演奏しているものに真剣になり、エネルギーを大量に使って演奏し、すごく楽しんでいながらも、ちゃんとうまく演奏できる−そんなミュージシャンの演奏が聴きたいのだろう。彼らは音楽を聴きたがっているんだ、音楽に対する敬意を聴きたがっているんだ」と答えたと、解説の伊藤政則さんは書いている。

このアルバムを最初に聴いたときには、満を持した再結成であるにもかかわらず、意外に地味な印象を得た。しかし聞き込むほどに、「ロックス」の威厳や「ドロー・ザ・ライン」のやんちゃさとはまた違った味の凄みがあることを感じるようになった。リズムが押さえ気味なのでそのパワーは聴き込んでこそわかる。いきなりリフで当然のごとく始まる1曲目「熱く語れ」は、ジョー・ペリーが脱退したときの「ジョー・ペリー・プロジェクト」での曲。途中で「ドロー・ザ・ライン」のリフが出てくるところが意味深だ。2曲目「マイ・フィスト・ユア・フェイス」、3曲目「シェイム・オン・ユー」、4曲目「リーズン・ア・ドッグ」とミドルテンポの曲が続く。あきらかに「ロックス」の再現というべき重厚なサウンドだ!

5曲目「シーラ」は、出だしのリフからはジャズを取り込んだ流行の曲のように思えるが、次第にエアロスミスらしさがむき出しとなり、アルバム前半の最高潮を迎える。これこそエアロスミスだ。6曲目「ジプシー・ブーツ」は初心に返ったような歯切れの良いテンポの曲。だがその中にも円熟期をむかえたミュージシャンたちの余裕がうかがえる。7曲目「シーズ・オン・ファイア」は不思議な音の弦楽器で始まるが、スローテンポのヘヴィーな曲。8曲目「ザ・ホップ」は軽快なロックンロール。そして最後の9曲目「ダークネス」はドラマチックでアルバム最後を飾るにふさわしい曲だ。スティーヴン・タイラー、ジョー・ペリー、ブラッド・ウィットフォード、トム・ハミルトン、ジョーイ・クレイマーの5人が一体となってロックという魔物に立ち向かっている。

このアルバムは1985年に発表された。これはユニバーサル・ビクター株式会社/ビクター・エンタテインメント株式会社から1998年に発売された日本盤のCDだ。

2000.7.18