Babble / Kevin Coyne Dagmar Krause


このアルバムを手にしたとき、ケヴィン・コインのことは何一つ知らなかった。といっても今でも知らないに等しいのだが。ジャケットもパッとしないし、レジに運ぶのをためらった記憶がある。よくいえば素朴なデザインということになるのだが、とにかく、ジャケットに惹かれて買ったわけでもない。ただダグマーとのデュエットだから買ったのだ。

アルバム解説の中邨杳一氏は、1974年から1976年頃にポリスのギタリスト、アンディ・サマーズがケヴィン・コインのバンドに在籍し、「マッチング・ヘッド・アンド・フィート」と「ハートバーン」そしてライブ盤「InLivingBlackAndWhite」というアルバムを残したことを紹介し、「75年当時のケヴィン・コイン・バンドこそは、現在のポリスのひとつの原型だったということだ」と述べている。こういう文を読むと、もっと他のアルバムも聴きたい気持ちになってくる。

「Babble」とは、幼児の片言ことば、ぺちゃぺちゃ喋ること、無駄口をきくこと、の意味だ。「SongForLonelyLovers」との副題も付いていて、ブギやロックンロールといった軽快な曲が中心だが、スラップ・ハッピー的なものやアバンギャルドな曲もある。作曲はすべてケヴィン・コインだが、ダグマーが歌っているものが5曲、ケヴィンが6曲、残りの5曲はデュエット曲。そのうち3曲はケヴィンの歌にダグマーが軽くコーラスを付ける程度だが、A面最後の「サン・シャインズ・ダウン・オン・ミー」とB面最後の「ウイ・ノウ・フー・ウィ・アー」は本格的なデュエットだ。

A1「アー・ユー・ディシーヴィング・ミー」はピアノを伴奏にケヴィンがせつなく歌う。「〜に似ている」というのは失礼なのかも知れないが、彼の声はピーター・ゲイブリエルのようだ。しかしゲイブリエルのような透明感ではなく、生々しい肉声のリアルな感覚がある。ヴォーカルにエフェクトをかけずオンマイクでリアルに録音されたA1に比べ、A3「デッド・ダイ・イング・ゴーン」では一転して深いコーラス処理をされたヴォーカルが聴ける。A4「スタンド・アップ」やB5「イッツ・マイ・マインド」のだみ声は、キャプテン・ビーフハートのように野生的だ。B9「スウィートハート」はダグマーの声が恐いアバンギャルドな曲。これいーねー。A2「カム・ダウン・ヒア」はどこかで聴いたことがあるような気がするのだが・・・?

全体的にバラエティに富んだ曲が集められ、アルバムとしては散漫な印象を受けるが、ダグマーは自然体で気持ちよく歌っている。スラップ・ハッピーでのように飾っていないし、ヘンリー・カウでのように怒っていない。このアルバムの発表年が定かではないのだが、「第3期ヴァージン・オリジナル・シリーズ4」としてビクター音楽産業株式会社から1981年に発売された、日本盤のアナログレコードだ。訳はないが歌詞は全部付いている。

2000.6.23