Slapp Happy / SLAPP HAPPY


今日は俺の大好きな極めつけのアルバムを紹介することにする。スラップ・ハッピーの有名なアルバムだ。このアルバムはイギリスにおけるファーストアルバムで、ドイツではこれ以前にファウストをバックメンバーにして「SortOff」というアルバムを1972年に発表したそうなので、このアルバムは彼らにとってはセカンドアルバムとなるはずだ。中心となるメンバーは3人で、ダグマーDagmar(LeadVocals)、ピーター・ブレグヴァドPeterBlegvad(SecondVocals)、アンソニー・ムーアAnthonyMoore、とクレジットされている。その他の楽器には、各曲毎に様々なメンバーが加わっている。

高校生の頃、家にオープン・リールのテープレコーダーがあった。俺の親父は若い頃に病気で視力を失い、様々な記録を取るのにテープレコーダーを愛用していた。そのおかげで俺の家ではテープレコーダーは日常的な道具だったんだ。俺は古くなったオープン・リールのテープレコーダーを借りて音楽を楽しんでいた。もちろんハイファイとしてはカセットテープのデッキもあったのだが、オープンリールは何時間もの再生が可能という利点があった。再生のスピードを3段階に変えることができたんだ。

もちろん再生速度を落とすと音は悪くなる。だが今ならCDなどのデジタル機器はもちろんのこと、カセットテープレコーダーでもリピート再生ができる機械があるが、当時はそんな便利なものがなかったのでオープンリールの再生時間がありがたかった。俺はブライアン・イーノの「ディスクリート・ミュージックDiscreetMusic」とともに、この「スラップ・ハッピーSlappHappy」を録音し、何時間も聞き続けていた。夜寝るときにスイッチを入れると、小さな音で一晩中ささやき続けてくれていた。

ダグマーの声を初めて聴いたのは、ヘンリー・カウのアルバム「InPraiseOfLearning」だった。アルバム冒頭の「War」では鬼気迫る声を聴かせてくれたが、このアルバムでのヴォーカルもまた素晴らしい。優雅であるが近くに何者をも寄せ付けない緊張感がある。タンゴのリズムで歌われる「カサブランカ・ムーン」はこのアルバムのタイトル曲ともいえる曲で、ダグマーの歌がぴったりとはまっている。ドラマチックな「ミスター・レインボウ」、そしてワルツ曲「スロー・ムーンズ・ローズ」、この3曲が俺のとっても好きな曲だ。

ああ、人生には素晴らしい出会いがある。この世の中でどれだけの人間がこのアルバムに出会い、感動を味わうことができるのかと考えると感謝しないではいられない。素晴らしい人と出会い、よき音楽と美味しい食事を楽しむ。これが人生最大の幸せだ。今日も俺は「スロー・ムーンズ・ローズ」を聴き、あいまいに覚えた歌詞を口ずさみながら眠りにつく。このアルバムはイギリスで1974年に発表されたようだが、このアナログレコードは1980年にビクターから「第2期ヴァージン・オリジナル・シリーズ」と題されて発売された日本盤だ。


2000.1.10