A Nice Pair / PINK FLOYD


一番最初に聴いたピンク・フロイドは確か「原子心母AtomHeartMother」だった。今でもこのアルバムは最高傑作だと思っているし、ロック界に与えた影響という点では「狂気DarkSideOfTheMoon」以上であるとも思う。その後「あなたがここにいてほしいWishYouWereHere」など何枚かのアルバムを聴き、このアルバムに出会った。

このアルバムはピンクフロイドのデビューアルバム「夜明けの口笛吹きThePiperAtTheGatesOfDawn」とセカンドアルバム「神秘ASaucerfulOfSecrets」をセットにしたものだ。この2枚を聴き比べると、セカンドの「神秘」は後に完成する幻想的なサウンドを想起させるものだが、ファーストの「夜明けの口笛吹き」の方は明らかに異なるサウンドである。それはファーストアルバムでスタープレイヤーであったボーカル・ギターのシド・バレットSydBarrettが、セカンドアルバムではDavidGilmourに交代していることが大きな理由である。

このアルバムで解説の渋谷陽一が書いているように、ファーストアルバム当時バンドのリーダーはシド・バレットであるという理解が一般的であるように思う。しかし改めてファーストアルバムに針を落としてみると、冒頭の「天の支配AstronomyDomine」やインストルメンタル曲の「パウ・R・トック・HPowR.TocH.」、B面冒頭で9’40”の大作「星空のドライヴInterstellarOverdrive」は明らかにロジャー・ウオータースの支配下にあるし、その他の曲においても実質的にボーカル・パートでしかシド・バレットの臭いはしない。つまり俺が言いたいのは、シド・バレットはスター・プレイヤーであったとしても、ピンク・フロイドの主導権をとっていたのは最初からロジャー・ウォータースであったのではないかと言うことだ。そしてシド・バレットはピンク・フロイドでは自己実現ができないことを悟り、去って行ったのではないか。

バンドというものは不思議なもので、メンバーが互いに影響を与えながらエネルギーを高めあってひとつの形に結晶する。多くの場合類まれなる個性のぶつかり合いから途方もなく素晴らしい作品が生まれ、演奏のエネルギーが沸き立つものだ。だが残念ながらシド・バレットはピンク・フロイドにとって「触媒」ではあったとしても、互いに化学反応をおこし響き合う相手ではなかったようだ。

このアルバムは「RockGreatestSuperDouble」と題して東芝EMI株式会社から発売された日本盤のアナログレコードだ。ずいぶん古いものだからジャケットも黄色味を帯びている。時代を感じさせるジャケットの雰囲気も味わってくれ。


1999.12.29