Fish Out Of Water / Chris Squire


イエスYESのベーシスト、クリス・スクワイアChrisSquireのファースト・ソロアルバムだ。自分の得意分野で活躍する人を指して「水を得た魚」と言うことがあるが、これを英語では「He has found his element.」というらしい。その逆で「水を離れた魚」という言い回しがあって、これを「He is like a fish out of water.」といったり「He is out of his element.」といったりするようだ。さしずめ「イエス」というバンドは、クリス・スクワイアという「魚」にとって「水」の中にいるように自由奔放に活動できたのだろう。

だがこのソロアルバムでは、そんな懐古的視点や嘆き、躊躇いは一切ない。実にストレートで素直なアルバムだ。もちろんサポートするメンバーは、気心知れたイエスのメンバーであったりするので当然かもしれない。ドラムはビル・ブラフォードBillBruford、サックスはメル・コリンズMelCollins、オルガンとベース・シンセサイザーはパトリック・モラーツPatrickMoraz、フルートはJimmyHastings、パイプオルガンはBarryRose、となっている。

1曲目「HoldOutYourHand」は重厚なパイプオルガンとスクワイアの張りのあるベースで始まり、冒頭から感情は高まる。基本は4拍子なんだが、リフの中に6拍の部分があって、部分的変拍子になっている。だがリフが自然に溶け合っていて、リズムもゆったりとしたものなので全く奇をてらった感じはしない。だがこのヴォーカルはジョン・アンダーソンととてもよく似ている。だがこのヴォーカルはクリス・スクワイア自身のもののようだ。そして曲は途切れなく2曲目「YouByMySide」へ流れ込む。おおきくおおきく、感動的に高まり、3曲目「SilentlyFalling」へと続く。これは11分21秒の大作。前半はゆったりとヴォーカルを聴かせ、中盤はテンポを速めてインプロビゼーションの洪水。エクスタシーの極みへと達してゆく。そして後半はしっとりと、そしてドラマチックに収束。見事な構成美。アナログレコードA面が、みごとなトータル感で貫かれている。

B面は2曲で構成されているが。これもやはりシームレスにつながっていて、全面トータルな作りになっている。だがこれはA面も同じなのだが、レコード盤を見ると、ところどころ曲間でないところにもセパレートの溝が刻まれている。思うにこれらの曲は、より小さな曲の集まりだったのか、いくつかのパートに分けられていたのではないかと想像される。「LuckySeven」は7拍子の曲。6分57秒の大作。最後は「Safe(CanonSong)」で14分53秒。アルバム中最も長い曲だ。まさに「大団円」という雰囲気の中で、盛大に感動的にアルバムは終わる。

このアルバムは1975年にAtlanticRecordingCorporationsから発売された、米盤のアナログレコード。1975年の春から夏にかけて、サリー州のヴァージニア・ウォーターと、ロンドンのモルガン・スタジオで曲想を練り、録音した、と書かれている。俺が学生時代に聴きまくっていたアルバムだ。


1999.9.2