左右のスピーカーから別々のサックスの音が聞こえる。同じフレーズのようでもあるし、違うようでもある。これはロル・コックスヒルのソロアルバムだ。
A面は「11.5.78」という名前が付けられた、約20分の演奏。おそらくその日付のコラボレーションなのだろう。クレジットはCoxhill/Emmersonとある。エマーソンとは何者か。苦手な英語だが、アルバムの裏ジャケットにある解説を読み解いてみる。サイモン・エマーソンSimonEmmersonは電子音楽のコンポーザー&パフォーマーだとある。ロル・コックスヒルと共同で開発したレコーディング方法は「ディグズウェル・テープ・システムDigswellTapesSystem」と名づけられていて、コックスヒルがサックスを吹き、それをエマーソンが加工、それをコックスヒルが聴きプレイする、またエマーソンが加工する、という工程を経るという。
最初は異なるフレーズだと思っていた左右の音は、いつのまにか遅延時間の短いエコー・フレーズとなっている。左右の音は重なるように近づいたり離れたりしながら、さらに複雑に変化する。リバーブが深くなったり浅くなったり。しばらくするとリングモジュレーターの独特なエフェクトがかかってくる。そしてまた深いリバーブとトレモロだ。このように電子的なエフェクトをかけられながら、コックスヒルのサックスも千変万化に変化する。ときには優しく、ときには激しく、また囁くようであったり、夢見るように響き渡ったり。エマーソンのエフェクトは、コックスヒルの感情のうねりをさらに奥深く豊かなものにしている。
アルバムのB面は「26.5.78」と書かれた、約19分のピアノとのデュエット曲。Coxhill/Westonとクレジットされている。これも解説を読んでみると、ヴァーヤン・ウェストンVeryanWestonは若いオリジナリティのあるピアニストで、コックスヒルと共に活動したバンド「StinkyWinkles」はロンドンのYoungJazzMusiciansOfTheYearAwardで最優秀賞を得たと記されている。互いに影響を与え合うプレイで、コミカルな場面もあるリラックスした息のあった演奏だ。
DigswellHouseとは、16人のアーティストが住み、創作活動をしているところだということだ。イギリスのHertfordshireにある。ロル・コックスヒルとともに、サイモン・エマーソン、ヴァーヤン・ウェストンもそのメンバーだと書かれている。
このアルバムは1979年にランダム・レーダー・レコードRandomRadarRecordsというレコード会社から発売されたアナログ・レコード。たぶん英盤。
1999.7.10