Future Days / CAN


ジャーマン・プログレッシブ・ロックの代表格、カン。やはり衝撃的だったのはファースト・アルバムの「モンスター・ムービーMonsterMovie」でした。ジャケットのデザインも奇麗な上に重々しく風格があり、雑誌で大きく評価されている記事を読んだ後は、いつかは聴いてみたいものだと心焦がれていました。その私の前に現れた「モンスター・ムービー」は、アメリカではなくヨーロッパからの輸入盤特有の光沢のあるジャケットに包まれた美しいものでした。

もちろん音楽も最高。しかしこれ以外のアルバムを聴いても、なんだか散漫な印象がぬぐえず、満足しきれませんでした。でこのアルバム。このアルバムも当時、プログレ系の音楽雑誌では最大級の賛辞を得ていました。「モンスター・ムービーMonsterMovie(1969)」、「サウンド・トラックスSoundTracks(1970)」、「タゴ・マゴTagoMago(1971)」、「エゲ・バミヤジEgeBamiyasi(1972)」に続いて、カンにとっては5作目のアルバムになります。

このアルバムには、未だに正体不明の日本人(らしき)ミュージシャン「ダモ鈴木」が参加しており、ジャケットの内側にはおそらくダモ鈴木らしい東洋人の写真が掲載されています。偶然バンドに加わることになり、別れるときも突然いなくなって消息不明と言われた伝説の人。写真でも電話機の上にアゴを乗せて、受話器を頭の上に置く、といった奇行を撮られています。私もダモ鈴木の写真を見るのは、このCDで始めてでした。今から26年も前。この時代にドイツでプログレッシブ・ロックのバンドで歌っていた日本人がいるということ、しかも写真を見る限りではそんなに若くなく、今なら50歳台もしくは60歳にもなっていそうな感じです。「すごい」と一言で語れるものではなく、いったいどんな人生を歩んだのだろうかと様々なイメージが湧き起こってきます。

プログレッシブ・ロックといえば暗くて難解だという印象のものが多い中で、1曲目のタイトル曲「FutureDays」は、混沌としているのはイントロだけで、牧歌的な印象すら感じさせる演奏。サウンドは派手ではなく、淡々とした繰り返しのリズムに祝祭的なものを感じ、一抹の清涼剤的な印象を受けます。と、2曲目「Spray」は一転して暗黒面を感じさせる曲。ですがこれも派手ではなく、ゆっくりと徐々に高まる呪術的なイメージです。

3曲目「Moonshake」はブルースのジャーマン・プログレッシブ・ロック的解釈、と言えばいいでしょうか、3分ほどの小曲です。最後の4曲目「BelAir」は20分の大作。今日、出勤のときにあらためて聴いていましたが、この曲が典型的にカンというグループの特徴をあらわしているように思えます。呪術的なエネルギーは、ベーシストのホルガー・シューカイHolgerCzukayの偏執的なメロディーから、そして命の鼓動を感じさせるヤキ・リーベツアイトJakiLiebezeitの細かく刻まれたドラムス、そして耽美的なイルミン・シュミットIrminSchmidtのキーボードの美しさ、ギターのミヒャエル・カローリMichaelKaroliはあくまでも控えめで、ダモ鈴木DamoSuzukiのヴォーカルは内向的です。

ところでこの評を書くにあたって、同僚のKさんに「これ知ってますか?」とCDを見せました。Kさんは私と同い年で、それほどのめり込んではいませんが音楽は大好き。私が「ジャーマン・プログレッシブ・ロックのバンドで、名前はカン。ファーストアルバムのタイトルは『モンスター・ムーヴィー』というのだ」と説明すると、「知らないけど、それだけで十分わかった気がします」と言いました(^_^;)

このアルバムは1973年に発表されました。このCDは1998年にミュート・コーポレーションMuteCorporationから発売されたオーストリア盤で、12月29日、シカゴのダウンタウンにあるヴァージン・メガストアで、$16.99で買いました。

1999.2.16