Chet Baker Sings And Plays From The Film ” Let’s Get Lost ” / Chet Baker
台風の去った後、透き通った空気の夜の街を車で走りながらこのアルバムを聴くと、街の風景はがらっと変わります。いつも通る同じ道も艶やかに輝いて見え、映画の一シーンのような劇場性を感じることができます。人はみなそれぞれの「人生」という劇場で演じているのだ、というようなドラマチックな気持ちにもなります。
チェット・ベイカーというミュージシャンについては名前を聞いたことがある、くらいしか知らなかったので、Webで検索すると実に様々なページに出会うことができました。その中で目を引いたのは、ミュージシャンであるHiro川島さんが作られている「”HiroKawashima”page」の中の「HomepageToChet」です。このページの中でHiro川島さんは、チェットとの出会いと彼への思いを熱く語っています。その冒頭には「チェットと初めて話をしたのは1986年、彼が初めて日本の地を踏んだときだった。ホテルのエレベーターから両手をポケットに突っ込んで現れたチェットは、少し不健康そうだったが、とても優しい話し方をする人だった。あれから約4年が経ち、チェットはもうこの世の人ではなく、もちろん二度と直接あの声を聞くことはできない。
しかし私は彼と会ったときの出来事を詳細に想い描くことができるし、彼が死んでしまった今も毎日、音楽を通して本当に一日も欠かさず彼と会話をしているような気さえする。」とあります。
素晴らしいミュージシャンとの出会いは、生き方をも変えてしまうエネルギーがあります。Hiro川島さんにとっては、チェット・ベイカーがそういうミュージシャンであったようです。せっかく演じるために生きているなら、できるだけ多くの人に影響を与え、また影響を受けることが幸せであるに違いありません。音楽というものは、そんなエネルギーを交換しあう可能性を持っています。
このアルバムは1989年にBMGミュージックBMGMusicから発売された米盤のCDです。ジャケットの写真は、折られて一部が剥げ、古めかしい感じを出しているデザインです。
1998.9.29