さて、このCDは、天才の名を欲しいままに活躍し、1987年9月21日に35才の若さで逝去したジャコ・パストリアスJacoPastoriusのファースト・ソロ・アルバムです。私は一度だけジャコ・パストリアスの演奏を見たことがあります。それは1984年の8月5日、ライブ・アンダー・ザ・スカイの大阪公演で、ギル・エバンス・オーケストラGilEvansOrchestraとの共演でした。
当時ジャコは神格化されたと言ってもよいくらいジャズ・ファンに熱狂的に支持されていました。もちろん私も大好きでしたが、冷静に演奏を見つめる余裕はありました。真っ直ぐに立っているのも難しいほどよれよれの様子で、演奏も荒っぽく、ディストーションをかけたベースの音は聴くに絶えませんでした。周りのファンたちは歓声をあげて喜んでいましたが、聴けば聴くほど冷めていく私でした。それでも時折はっとするようなフレーズが飛び出し、目がさめるようなきらめきも発見することができたのは、やはり天才のなせる業でしょう。またギル・エバンスは精一杯彼を盛り立てていました。
そのすぐ後、当時キョードー大阪に勤めていた先輩から、ツアー中ジャコ・パストリアスは「アル中のように飲んだくれて困った」という話しを聞きました。ライブの時の様子は単に一時的な不調ではなかったようです。
しかしこのアルバムでのベース・プレイは凄い。弦に触れる指の音が聞こえそうなくらいに録音がクリアなので、その凄さが際立ちます。これは誰もが言うところでしょうが、ドン・アライアスDonAliasのコンガとジャコ・パストリアスのベースのデュエット「ドナ・リーDonnaLee」、妻トレーシーに捧げたベースのソロ曲「トレーシーの肖像PortraitOfTracy」の2曲は、歴史的な名曲・名演奏と言えるでしょう。7曲目の「オコンコレ・イ・トロンパOkonkoleYTrompa」もベースという楽器の可能性に挑戦した意欲的な曲です。
このアルバムは1976年に発表されました。このCDは1993年にエピック・ソニー・レコードから「エピック・ナイス・プライス・ラインEpicNicePriceLine」と名づけられて再販された廉価版です。解説には雑誌「ADLIB」の編集長、松下佳男がジャコ・パストリアスへの熱い思いを語っています。
1998.2.21