今年の夏はまったくもって暑いかぎりだと思っていたら、いきなり秋がやってきたという気候だ。しかしここ数日は台風による湿った空気というか低気圧の影響というか、ぐにゃりと湿った肌触りの風が吹き、蒸し暑ささえ感じる日々が続いている。俺は突然の企画が入って少々忙しくしていた。元気か?
夏が終わるまでに紹介したいと思っていたブラック・ウフルーだ。うだるような暑さの中でこいつを聴くとトリップできること間違いなしだ。俺の記憶に間違いがなければ、1984年の夏、大阪城公園の野外ステージで行われた「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」コンサートで、コイツラは俺達の頭をノックアウトした。当時はまだ日本でそれほど知られていなかった奴等に、ジャズファンであるはずの聴衆は憑かれたようにノリまくった。確か多くのバンドが出演するはずの一番最初に演奏したブラック・ウフルーだったが、演奏が終わりバックステージへ引っ込んだ彼らを観客は許さず、ステージへ押し寄せて暴徒となる寸前だった。いつまで経ってもおさまらない会場に対して、主催者側の責任者らしき人が出てきて説得したことを覚えている。
俺はといえば、パワフルなリズム隊「スライ・アンド・ロビー」の名前を聞いてはいたものの、ブラック・ウフルーのアルバムは、コンサートに行く直前に「予習」程度に聴いていたくらいだった。もちろん歌詞の意味などわかっちゃいない。しかしあの場にいた俺には、襲い掛かるような熱いボーカルに身の毛がよだつような感動を覚えた。
ところでこのアルバムは、ブラック・ウフルーのファーストアルバムだ。タイトルは「ゲス・フーズ・カミン・トゥ・ディナー」と書かれているが、邦題は「ショウケース」となっている。「ブラック・ウフルー」という名前は、マイケル・ローズMichaelRose、ダッキー・シンプソンDuckieSimpson、ピューマ・ジョーンズPumaJonesのボーカル・トリオに付けられたものだ。そしてこのアルバムのサウンドを手がけたのは、ドラムスのスライ・ダンバーSlyDunbar、ベースのロビー・シェイクスピアRobbieShakespeareの二人。その他はRadcliff”Dougie”Bryan(LeadGuitar)、RanchieMcLean(RhythmGuitar)、AnseiCollins(Piano)、KeithSterling(ElectricPiano,Organ)、WinstonWright(Organ)らのクレジットがある。
1曲目「シャイン・アイ・ギャル」が最も典型的だが、完全にリード・ボーカリストのマイケル・ローズの音楽観、世界観に支配された音楽だ。この曲では特にそうなのだが、ソロパートであろうがコーラスパートであろうが、一向におかまいなしに同じリズムを打ちベースラインを刻むスライ・アンド・ロビーの外連のない伴奏が、マイケル・ローズの歌を際立たせ呪術的なパワーを高めている。「リビング・トゥ・ザイアン」、「ジェネラル・ペニテンシャリィ」、そしてタイトル曲の「ゲス・フーズ・カミン・トゥ・ディナー」。どの曲も魔術をかけられたように心に響いてくる。
ブラック・ウフルーとスライ・アンド・ロビーの強力ジョイントによるこのアルバムだが、彼らが出会うことになったきっかけは偶然らしい。アルバム解説で会田裕之氏はスライ・ダンバーの言葉を次のように紹介している。「あの時はジョ・ジョというプロデューサーとの仕事が終って、さあ、帰ろうという時に、スタジオがまだ押さえてあることに気が付いたんだ。じゃあ、もう1枚アルバムを作ろうという話しになってね。マイケルは俺の親友ジョーゼフ・ローズの弟で、そのジョーゼフが交通事故で死んでしまったんだ。もともと彼がプロデュースする筈だったんだが、そこでマイケルが俺の所に来て、ぜひプロデュースをしてくれと言ってきたのが始まりさ。それからだね、彼らとの仕事のスタートは・・・」
B面は3曲。「アボーション」、「レゲエ・ビート」、「プラスティック・スマイル」。いささか悲しい社会の現実を暴露しながら、ひたすら自由の心を歌い上げている。ジャケットの写真を見ろ。ロックを信じた3人の素晴らしい奴等がここにいる。
このアルバムを気に入らなければブラック・ウフルーはやめたほうがいい。このアルバムは1979年に発表された彼らのファーストアルバムだ。これは1983年にCBSソニーから発売された日本盤のアナログレコードだ。
2001.9.8