俺がこのアルバムに出会った高校生の頃、少しずつイタリアやフランスなどヨーロッパのプログレが日本で紹介されるようになってきた。輸入盤の流通も少なく、それ以上に情報が少なかった当時「ユーロピアン・ロック・コレクション」というシリーズは、耳になじんだアメリカやイギリスのロックとは違う衝撃を与えてくれた。日本におけるヨーロピアン・ロックの普及には「たかみひろし」さんが大きな役割を果たしたが、このアルバムも解説を書かれている。
アンジュはフランスのロック・グループ。フランスではかなり有名なバンドのようだ。アルバム解説から引用すると、タイトルの「エミール・ジャコティ」はメンバーのDecamps兄弟の親戚にあたる人ということで、この老人の昔話がコンセプトになっているらしい。アルバム全体がトータル的な作りになっている。
だが言葉はフランス語。詩の語りもあちこちで挿入されているし、老人の声での語りもあるが、悲しいかな意味がわからない。フランス語、といえば優しくエレガントな言葉というイメージがあるが、このアルバムではとても力強くパワフルに歌われていて、エキセントリックな印象もあいまって迫力を感じる。その語感の響きだけで想像力を働かせるしかない。それでも楽曲として十分楽しめる。
Webページ「プログレの館」では尾崎祐輔さんがアンジュのサウンドをこう評されている。「フレンチ・シンフォニックの雄。アンジュ・オルガンと呼ばれる、独特のオルガンの音色がとても幻想的だ。しかし全体のイメージはかなりヘヴィーで、下品さを含んだ重たいサウンドの中にファンタジックな部分が見え隠れする、といった感じだろうか。ヘヴィーさを出しているのはリズム隊と、ミキシングによるものだと思う。ドラマーのプレイ自体ヘヴィーだが、アルバムのミキシングも重低音を効かせたものになっていて、’70年代前半のブリティッシュ・ハードロックのような音作りだ。そしてなんと言っても、クリスチャン・デカンのヴォーカルが強烈な印象を残す。よくはわからないが、フランス語の発音をよく活かしているのではないだろうか。まるで、つばを飛ばしまくりながら歌うかのような、極端にデフォルメしたスタイルはとてもシアトリカルだ」。「下品さを含んだ重たいサウンド」、「つばを飛ばしまくりながら歌うかのような」のところなど、実に的確に表現されている。
このアルバムには1975年と書かれているが、アルバム発表は何年だろうかわからない。解説は1979年8月15日と記載されているので、この日本盤の発売はこの頃だったのだろう。日本フォノグラムから発売された日本盤のアナログレコードだ。廉価盤だったのか、裏ジャケットに直接解説が印刷されていて、少し安っぽく見えて残念。
1999.8.23