プログレッシブ・ロックのファンというものは、たいてい思い入れが強いものだ。そこでバンドの方向性が変わったとき、ファンの多くが変化を受け入れることができずに酷評されるということが往々にしてある。タンジェリン・ドリームもそうだ。ファースト・アルバム「エレクトリック・メディテイション」は別格にしても、名作「ルビコン」を経て発表された「リコシェ」、そして「ストラトスフィア」ではファンを大きく悩ませた。
必ずしも気難しく難解な音楽が良いという訳ではないが、軽々しい音楽は私の好みではない。これは単に明るいとか聴きやすいとかいうことではなくて、音楽に心がこもっているかどうかということだ。例えばこのアルバムには4つの曲が収められているが、3曲目の「シナモン・ロード」はいただけない。工夫に乏しく丁寧さに欠ける音楽だ。最後の4曲目「スフィンクス・ライトニング」も、初期タンジェリンに回帰したように思えるが、奥深さがまるで感じられない。潔さが、ない。2曲目のタイトル曲「ハイパーボリア」も、荘厳なイメージを作り出そうと懸命だが、タイトル曲でありながら迫力に欠ける。
このアルバムでの聴き所は1曲目の「ノー・マンズ・ランド」だ。アタックの強い軽快な音を効果的に使いながらエスニックな色彩を感じさせ、全体として深みと潤いのある魅力的な音楽となっている。シーケンサー的な繰り返しのメロディーが基本だが、アレンジもよく練られている。
このアルバムは1983年に発表された。このCDは1990年にヴァージン・ジャパンから発売されたもの。解説は深民淳さんが書かれている。
1998.12.2